■毛抜(けぬき)
小野春道の館では、家宝の短冊が盗まれて御家騒動が起こり、さらに姫君錦の前が病にかかったため輿入れが先延ばしとなっています。そこへ姫の様子を伺いに、許嫁の文屋豊秀の家臣粂寺弾正がやって来ます。髪の毛が逆立つという姫の奇病を見た弾正が、思案しながら毛抜で髭を抜いていると、不思議なことに毛抜が宙に浮き始めます。これを見て病の原因に思い当たった弾正は真相を突き止め、悪人から短冊も取り返し、悠々と屋敷を後にするのでした。
豪快な弾正が事件を解決しながら、悪事を曝いていく荒事の一幕。遊戯性に溢れ、明るくユーモアたっぷりの弾正が活躍する歌舞伎十八番をお楽しみください。
■口上(こうじょう)
平成二十四年六月、東京の新橋演舞場で二代目市川亀治郎が四代目市川猿之助を襲名し、その襲名興行は大きな話題となりました。このたびは、猿之助が各地の皆様に襲名の御挨拶を申し上げます。
■義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
吉野にある川連法眼の館に匿われている源義経のもとへ家臣の佐藤忠信が訪ねて来ます。そこへ静御前と忠信の到着が告げられますが、やって来たのは静ひとり。不審に思った義経はもうひとりの忠信の詮議を命じます。静御前が初音の鼓を打つと、どこからか忠信が現れます。実はこの忠信は、初音の鼓の皮に用いられた夫婦狐の子。親を慕い、忠信の姿に化けて鼓と静御前に付き添っていたのです。孝心に感嘆した義経が、静を守護した褒美として鼓を与えると、狐は喜んで古巣へ帰って行くのでした。
義太夫狂言三大名作のひとつ『義経千本桜』の中でも有名な「四の切」。澤瀉屋型ならではの数々の仕掛けや早替りなど趣向溢れる華やかな一幕です。親子の情愛を描いた名作をご覧ください。