四代目 成駒家
坂田藤十郎の長男。昭和42年に初舞台の後、平成7年に五代目中村翫雀を襲名。今年の1月と2月に大阪松竹座で四代目鴈治郎を襲名。1月の襲名狂言は、家の芸でもある『廓文章』の伊左衛門と『封印切』の忠兵衛。初役で勤めた伊左衛門では、はんなりとした上方の味わいを見せた。そして翫雀襲名以来、何度も勤めている忠兵衛では、忠兵衛の悲哀に深みが増した。2月『傾城反魂香』の又平は、曾祖父の初世鴈治郎型で演じ、成駒家の芸を継承する。今後の上方歌舞伎の担い手である。
【坂田藤十郎(さかたとうじゅうろう)】
四代目 山城屋
二世中村鴈治郎の長男。昭和16年に二代目中村扇雀を名のり初舞台。平成2年に三代目鴈治郎を襲名した後、平成17年に四代目藤十郎を襲名。名実ともに上方和事の継承者となる。今年は長男の四代目鴈治郎襲名披露で、『廓文章』の夕霧、『曽根崎心中』のお初を勤めた。お初は、扇雀時代の初演時から1300回以上勤めた当たり役。年を重ねても初々しさや色気を失わず歌舞伎界を牽引する。近松作品をはじめ上方歌舞伎の復興に生涯を捧げる役者人生である。
【中村扇雀(なかむらせんじゃく)】
三代目 成駒家
坂田藤十郎の次男。昭和42年に初舞台の後、平成7年に三代目中村扇雀を襲名。父の芸を受け継ぎながら、女方と立役を兼ねる。昨年の『藤十郎の恋』では坂田藤十郎役を勤め、芸のために生きる役者の刹那的な恋と空虚感を表現した。兄の鴈治郎襲名狂言『封印切』では、兄が勤める忠兵衛を相手に梅川をはかなく演じた。また『対面』では和事の十郎を品良く勤め、『嫗山姥』の八重桐では、意欲的に父の型に挑んだ。兄とともに今後の上方歌舞伎を担う。
【尾上松緑(おのえしょうろく)】
四代目 音羽屋
初世尾上辰之助の長男。昭和55年に初お目見得の後、翌年に二代目尾上左近を名のり初舞台。平成3年に二代目辰之助、14年に四代目松緑を襲名。祖父二世松緑、父初世辰之助譲りの立役で、きれのある身体能力を持ち合わせ、荒事や舞踊をはじめとして活躍が目覚ましい。昨年は『御摂勧進帳』の弁慶や『矢の根』の五郎など大らかな役を生き生きと勤めた。長男三代目左近が初舞台で勤めた『蘭平物狂』の蘭平は、自身の松緑襲名披露狂言でもあり、若い時からの当たり役である。
【坂東亀寿(ばんどうかめとし)】
初代 音羽屋
坂東彦三郎の次男。昭和59年に本名で初お目見得の後、平成元年に亀寿と改名。口跡に恵まれ、清新な立役をこなす。世話物では江戸っ子の粋な若者がよく似合い、『白浪五人男』での鳶頭清次や『三千両初春駒曳』の奴木田平も印象に残っている。また、『素襖落』の次郎冠者や『棒しばり』の曽根松兵衛など松羽目物の舞踊では、真摯な姿勢が好感を呼ぶ。役の人物像を掘り下げることで、芝居全体に奥行きをもたらすことができる貴重な花形。
【中村亀鶴(なかむらきかく)】
二代目 八幡屋
初世中村亀鶴の長男。祖父は四世中村富十郎、祖母は初世中村鴈治郎の娘。昭和51年に初舞台の後、平成3年に中村芳彦を名のり、平成13年に二代目亀鶴を襲名。平成21年から坂田藤十郎一門。古風な顔立ち、口跡の良さで花形世代における貴重な立役。昨年の『魚屋宗五郎』では奴三吉を軽快に勤め、『鳥辺山心中』では硬派な坂田源三郎を勤めた。今年の『対面』では朝比奈の滑稽味を身体中で表現した。芸域の広さと確かな技術が強みである。
【中村壱太郎(なかむらかずたろう)】
初代 成駒家
中村鴈治郎の長男。平成3年に初お目見得の後、平成7年に初代中村壱太郎を名のり初舞台。昨年、日本舞踊吾妻流七代目の家元として吾妻徳陽を襲名。幼少時から舞踊をはじめ邦楽の基礎に支えられた真摯な芸が魅力の若手女方。今年は父の襲名披露興行で精力的に活躍中。『河内山』では腰元浪路を可憐に勤め、『京人形』では艶やかな人形の精を演じ、『四の切』では美しい静御前を堂々と勤めた。父との共演『連獅子』では息の合った踊りを見せた。
【中村虎之介(なかむらとらのすけ)】
初代 成駒家
中村扇雀の長男。平成13年に初お目見得の後、平成18年に初代中村虎之介を名のり初舞台。くっきりした目鼻立ちと愛らしい仕草で、同世代にも人気の17歳。昨年は、『ぢいさんばあさん』の短気な久右衛門、『勢獅子』の粋な鳶頭、『鰯賣』の傾城滝の井、『先代萩』の忠臣山中鹿之助を、いずれも初々しく演じた。今年の『対面』の八幡三郎は柔らかみをもって演じることができ、今後も様々な役柄を経験しながら、芸道に精進することに期待される。
【中村寿治郎(なかむらじゅうじろう)】
初代 成駒家
二世中村鴈治郎に師事し、昭和27年に中村鴈好を名のり初舞台。昭和33年に二代目中村扇雀(現・坂田藤十郎)門下となり、昭和46年、中村扇豊と改め名題昇進後、平成7年に寿治郎に改名。今年1月に幹部昇進。60年以上の長い舞台歴を持つベテラン脇役。『曽根崎心中』の下女お玉や『封印切』の阿波の大尽、『河庄』の善六など、上方歌舞伎の雰囲気を醸し出し、独特な存在感が印象的。